大人が忘れてしまう子どもの苦労(中堅教師あるいは教育熱心な親がおちいる罠)

勉強というのはなかなか奥が深いものです.とはいえ,受験勉強に限って言えば,子どもが高校受験ならば3年間で,大学受験ならば6年間で学ぶことなので,大人が本気で勉強すれば数年でその範囲のことに精通することができますし,10年も一つの教科を教えれば,もう子どもが何をどういう風に間違えたり,なぜ理解できないかということも大抵分かるようになります.


例えば,私も長い間塾や予備校で教えてきたので分かりますが,大手の塾の先生というのは,大抵ある教科の専門の先生がいて,その教科についてはもう何を聞かれても即答で生徒が求める答えを出してくれたりして生徒からすると神のように見えるかもしれません.まあ,その教科ばかり何年も教えているから当り前なんですけど,生徒にとってはとても役に立つことですから素晴らしいことであることは間違いありません.教師がその教科に精通すればするほど,教えるのがうまくなればなるほど,その教師から教えてもらっている生徒は効率よく勉強することができ,成績も・・・


実は,ここに一つの罠があります.というのは,生徒の成績というのは,単にうまく教えただけではあがらないのですが,教師は「なんで自分がこんなにうまく,そして一生懸命教えているのに,この生徒はもっとできるようにならないんだ,この生徒ができるようにならないのは努力が足りない,本人が怠け者だからだ」と思ってしまうんですね.


ちょっと想像力を働かせれば分かることですが,生徒が毎日勉強に裂ける時間がそう多くありません.サッカー,野球,ブラスバンド,バレエ,ピアノ,読書,恋愛,サイクリング,旅行,友だちとのたわいもない雑談や,ディズニーランドやスマホやゲーム機で遊んだりすることでさえ,(やりすぎはいけませんが)子どもにとっては貴重な人生経験であるに違いません.ましてや子どもは一つの教科だけを勉強しているわけではありませんから,一つの教科に割ける時間は限られています.


それでも,英語の先生,数学の先生,国語の先生,理科の先生,みんなが「もっと英語を勉強しろ!数学を勉強しろ!国語を勉強しろ!努力が足りない!」と生徒に言ったらどうなるでしょう.子どもは何から手を付けていいか分からなくなりますし,努力をしても評価をされなければ,最後にはまったくやる気をなくしてしまうでしょう.


これは,いわばお父さんは「お前はプロゴルファーになるんだからゴルフだけをやってればいいんだ!」と昼間の学校以外の時間はずっとゴルフの練習をさせて,お母さんは「勉強ができるようになればいい大学に行けてお医者さんになれるか,そうじゃなくてもいい会社に就職できて一生生活には困らないから」と夜は寝る時間を削って勉強させているようなものです.子どもは親の期待に応えたいがゆえに頑張るかもしれませんが,確実に疲弊していきます.


こういうことが,今教育の現場で(あるいは気づかない間にご家庭でも)起こっているのです.お子さんがまじめであればあるほど,教師や親が子どもに期待すればするほど悪い状況が起こりうるのです(最悪なのは教師や親が,無意識に子どもを自分たちの自己実現のためのコマのように考えている場合ですが,これはこれで大きい問題なのにまた機会があればお話ししたいと思います).


専門の教科に精通することは教師にとって必要なことですが,それだけでは,実は子どもに対して大きな負担をかけてしまうリスクがあるということ,これは教師が常に気をつけていなければいけない罠であると思います.